ひとしおの意味
「ひとしお」は、「ひときわ」という意味の副詞です。
「しお」というのは、万葉仮名の時代からあった回数を意味する接尾語であり、「ひとしお」を現代語に直訳すれば「一回」という意味になります。
「ひとしお」は漢字で「一入」と書きますが、「しお」に「入」を当て字しているのは、布を染料に浸す(入れる)回数を意味しているからだと言われています。
つまり、染料に一回浸すごとに染物の色が濃くなり、いっそう鮮やかになるところから、「ひときわ」を意味する言葉になったという訳です。
ひとしおの例文
「ひとしお」の使い方
「ひとしお」は自分の気持ちや感情が一段と深まったり、盛り上がったりしたときに使います。「喜びもひとしおです」などとすることで「この喜びは他の喜びよりも一層」という気持ちを表すことができます。
自分以外の他人に対しても、その人の気持ちを想像して「懐かしさもひとしおでしょう」などとすることができますし、他にも食べ物の味や香り、感触など人の五感全てに対して使うことができます。
「おいしさもひとしお」「香りもひとしお」「手触りがひとしお」「美しさがひとしお」「ひとしおの音色」などです。
また「ひとしお」と「一入」はどちらも読み方や意味は同じですが、醸し出す雰囲気には若干のちがいがあります。
目上の方への「ひとしお」の使い方
「ひとしお」という言葉は目上の方に使っても、特に失礼ではありません。使う状況が間違っていなければ、正しいお祝いの言葉として受け止めてもらえるでしょう。
たとえば上司のお子さんがご結婚をされた場合や、お孫さんが生まれた場合などであれば「お喜びもひとしおでしょう」という言葉で祝うことができます。
しかし相手が目上の方の場合はよほどのことでなければ「ひとしお」は使いません。なぜなら、目上の方は目下の自分が思うよりも、たくさんの喜び事があるだろうというへりくだった気持ちを表すことも必要だからです。
「ひとしお」の注意点
「ひとしお」という表現は基本的にポジティブな事柄について使います。嬉しい、楽しいなど前向きな感情が、それまでよりもさらに大きくなることに「ひとしお」が合うためです。
反対に、悲しい、辛いなどネガティブな感情については「ひとしお」が使われることはほとんどありません。
また「ひとしお」は「他のものや感情と比べて飛び抜けている」という意味なので、結婚や出産、昇進など特におめでたいことに使います。
比較的小さなお祝いごとや、日常的な事柄には「お喜びでしょう」「うれしいでしょう」などややフランクな言葉を選ぶか、「おめでとうございます」などのお祝いの言葉にした方が良いかもしれません。
「ひとしお」の類語
「一層」
「より一層」などにも使われる「一層」は「ひとしお」と同じ使い方をすることができます。
「喜びも一層」「一層かわいい」など、これまでの気持ちにもう一つ重ねた感情を表す言葉です。
「ひとしお」と違う点は「一層」はネガティブな感情にも使えるということです。
「一際(ひときわ)」
「一際」は「ひとしお」の原型ですが、「ひとしお」とややニュアンスが違います。「一際」は「際立って目立つ」という意味です。
多くのものの中で、他と比べて特に目立って秀でているものに「一際」を使います。「一際美しい花」「一際優れた成績」などと使い、他者を寄せ付けない様子を表しています。
また「一際」はネガティブなことについても使われます。本来の意味は「秀でる」というニュアンスですが、そこを敢えて悪いことに使うと嫌味な言い方にすることができます。
「一段と」
「ひとしお」「一際」とほぼ同じ意味を持つ言葉に「一段と」があります。
「ひとしお」「一際」が多くのものの中、または多くの感情の中で特に、という意味ですが、「一段と」は比較的少数のものや感情と比べて、他と差がついているという感情です。
「一段と上手くなったね」「一段ときれいになったね」など、前回と比べて、もしくはここ最近と比べてという意味で使われます。イメージとしては、前回に比べて腕を一段上げている、というものです。
「尚更(なおさら)」
日常的にも良く使われている「尚更」も「ひとしお」の言い換えに使うことができます。
「尚更」とは「今までに増して」という意味です。自分の気持ちが今までに増して強くなったときに「尚更」を使います。
「いつか海外に住みたいと思っていた気持ちが尚更強くなった」などとすることで、これまでよりも気持ちが強くなった、高まったという状態を表せます。「尚更」はネガティブな意味にも使え「こんな失敗をするなら尚更連絡して欲しかった」など、後悔や怒りの気持ちを強く表すこともできます。