間違いやすい「抜かりなく」の意味と使い方・類語と例文

「抜かりなく(ぬかりなく)」の意味

「抜かりなく」は、ビジネスシーンやニュースなどでよく使われる言葉です。文字を見たり、言葉を聞いたりしただけでは意味の推測が少し難しいかもしれません。

まずは以下で「抜かりなく・抜かりない」の意味について解説します。

「抜かりなく」とは「油断や失敗がないように」という意味

「抜かりなく」とは「油断や失敗がないように」という意味です。物事に対して油断をし、その結果失敗することを「抜かる」といいます。この「抜かり」がないように、という意味で「抜かりなく」が使われます。

・今回のプロジェクトには社運がかかっている、全社員抜かりなく取り組んでほしい

・繊細な作業なので、抜かりなく行うことがいちばん重要です

・私は毎日を抜かりなく過ごすことで、大きな学びを得た

「抜かりなく」には緊張感が伴うことが多く、失敗をしてはならないという強い気持ちを伝えられます。その分、日頃の生活ではあまり多用はされません。日常生活で当たり前の注意を促す場合は「気をつけて」「集中して」など、他の言葉で油断や失敗への注意示します。

日常の当たり前な注意や、ビジネスシーンでもさほど重要とは思えない場面で「抜かりなく」を使うと、やや大げさな印象となるので使うシーンは選ぶようにした方が良いでしょう。

「抜かりない(ぬかりない)」とも言う

「抜かりなく」は「抜かりない」とも言います。どちらも間違いではありません。「抜かりなく」と「抜かりない」は、前後の言葉で使い分けます。

・全社員抜かりない準備をしてください

・日頃からの抜かりない努力が、今の彼を作ったのだ

・常に抜かりないよう、気を引き締めてくれ

「抜かりない」は後に名詞が来ます。準備・努力・気(を引き締める)などです。意味は「抜かりなく」と同じで、油断や失敗への警告を含みます。

「抜かりなく」と「抜かりない」は、後に来る言葉や文章によって使い分けるのみで、緊張感のあるニュアンスにも変わりはありません。

「抜かりなく・抜かりない」の使い方と例文

以下では「抜かりなく」または「抜かりない」の使い方について、例文を交えて解説します。

手抜かりない・手抜かりなく

「手抜かりない・手抜かりなく」とは、不十分でないように・見落としや欠陥がないように、という意味です。主に手続き事や作業などに使います。

・契約書は大切な書類なので、手抜かりなく作成してくれ

・一切の手抜かりのない、丁寧な作業がこの作品を生み出した

・こんな簡単な作業が手抜かりなくできないなんて、慣れすぎてしまっているのではないか

「手抜かり」は「手を抜く」という言葉がそのまま慣用句となったものです。注意が不十分な様子を指します。

注意をせずに油断し、失敗してしまうことを「手を抜く」と言います。この「手を抜く」を別の言い方にすると「手抜かり」です。

抜かりない人

「抜かりない人」とは、失敗や不注意がない人のことです。本人の油断による不手際がなく、何事もきちんとできる人を「抜かりない人」と言います。

・彼は他人にも自分にも厳しいが、その分抜かりのない人だ、彼に任せれば安心できる

・彼女は抜かりない人だから、こんな初歩的なミスをするわけがない

・異動してきた部長は色んな意味で抜かりない人と評判だそうだ

「抜かりない人」は基本的には褒め言葉です。その人が注意を払って行動していることを表します。しかし「抜かりない人」に、狡猾・ずる賢いという意味を含ませて使う場合もあるようです。

その言葉にどんな意味を持たせているのかは、話し手にしかわからない部分はありますが、「色んな意味で」「良くも悪くも」などの言葉と「抜かりない人」を併せると、ただ油断しない・失敗しない以外の意味が含まれているかもしれません。

敬語では使わない

「抜かりなく・抜かりない」は、目上の人の行動には使いません。「抜かる」という状態は、相手の怠慢や油断です。目上の人に「抜かりなく」を使うと、さも相手が油断をする人のように受け取られてしまいます。

・部長、この件につきましては慎重に進めていただけばと存じます

・少し緻密な作業ですが、どうぞお気を付けください

・この件につきましては、どうかご検討のほどよろしくお願い申し上げます

目上の人に何かを依頼する場面で、かつそれに抜かりなく臨んで欲しい場面では、他の言葉を使います。

もちろん目上の人との会話でも、抜かりなく臨むのが自分や自分の身内、自分の部下などであれば「抜かりなく」を使っても問題ありません。

「抜かりなく・抜かりない」の類義語

「抜かりなく・抜かりない」には似た意味を持つ類語があります。

そつなく

「そつなく」とは、抜かりなくという意味です。つまり「そつなく」と「抜かりなく」は同じ意味を持つ同義語です。

・彼は何でもそつなくこなすので安心だ

そつのない対応を頼むよ

・彼女は仕事をそつなくこなすが、これといって秀でたものはまだない

「そつなく」の「そつ」とは、不注意・無駄です。その「そつ」に「なく」という打ち消しの言葉がついているので「不注意のない」「無駄のない」という意味になります。

「そつなく」は「そつのない」「そつない」など、「ない」として使うこともあります。「そつない」と言葉が変わっても、「そつ」がないことに変わりはなく、意味は同じです。

抜け目ない

「抜け目ない(ぬけめない)」とは、準備不足がない様子を意味します。「抜かりなく」は全体的な油断がないことを表しますが、「抜け目ない」は準備不足という点に焦点が絞られているのが特徴です。

抜け目ないよう万全の体制で臨んでください

・彼の仕事には抜け目がなく、お客様にも評判が良い

・こんな大事なところで抜け目ない仕事ができないのなら、気持ちを入れ替える必要があるだろう

「抜け目ない」という言葉自体は「準備不足がない」という良い意味の言葉です。しかし、「抜かりない人」と同様に、使う人の心情によってはその完璧な準備を非難する意味でも使われます。

「あいつは本当に抜け目がないな」などは、言い方や状況によっては当人への嫌味である可能性もあります。

ミスなく・滞りなく

「ミスなく」「滞りなく(とどこおりなく)」は、ビジネスシーンでも日常的に使われているでしょう。「ミスなく・滞りなく」も「抜かりなく」の類語です。

・書類はミスなく仕上げてほしい

・この計画は滞りなく進めて行かなければなりません

「ミスなく」は言葉通り、ミスのないようにという意味です。

「滞りなく」とは、物事を順調に、つかえたり詰まったりしないようにという意味です。「滞りなく」は物事の契約や進捗について使われます。

物事が「抜かりなく」行われていれば、ミスや滞りは起きにくいでしょう。そういう意味では「抜かりなく行った結果」が「ミスなく」「滞りなく」であるとも言えます。

遺漏なく (いろうなく)

「遺漏なく」とは、抜かりなく・怠りがなくという意味です。「抜かりなく」と同じで、油断や失敗のないようにという意味を持っています。

「遺漏」とは、物事に漏れがあることです。その「遺漏」に「なく」という打ち消しの言葉が付いているので、「漏れがないように」という意味になります。

・A社には前回こちらのミスで迷惑をかけてます、今回は遺漏なく進めるよう細心の注意を払ってください

・まずは遺漏なく仕事をすることだ、技術や知識の向上はそれからでも遅くない

・彼女は遺漏なくきちんとやってくれる、と取引先からの評判も良い

絶対に失敗できない、いつも以上に気をつけて欲しいという場面で「遺漏なく」を使うと効果的かもしれません。

「遺漏なく」は普段頻繁に使われる言葉ではないかもしれません。しかし、だからこそ「遺漏なく」が使うと緊張感が高まりやすくなります。