時下 の読み方と意味・使い方・例文

時下 の読み方と意味

「時下」は、季節の手紙や挨拶文などで目にする言葉です。何となく目には入っているけれど、なぜ「時下」と書かなければならないのか、どんな意味なのか、という点については知らない人も多いかもしれません。

まずは、以下で「時下」の意味と読み方について解説します。

時下の読み方は「じか」

時下は、「じか」と読みます。

もともと漢籍に書かれている漢語として日本語の中に入ってきた言葉ですので、漢文を読み下すときの音読みのまま、「じか」という読みで定着しました。現代の中国語でも、「今」という意味の言葉として残っています。

末尾に「下」が付く似ている言葉として戦時下・状況下などの用例があり、それらは現在でも普通に使われています。しかし、時下は、現在では書簡文の時候の挨拶に代える言葉としてしか使われていません。

時下の意味は「今」

目下(もっか)という言葉と同じで、「ただ今」、「この頃」、「現在」といった意味です。

時候の挨拶は、四季折々の季語を使って「〜の候」としたり、季節感のある修辞表現をしたりすることによって風情を感じさせます。

しかし、書簡の前置きを手短に済ませたいときや、華美な表現を抑えて簡素な文面にしたいときもあるでしょう。そんな時に使うのが「時下」です。

時下を使用した挨拶文例文

①ビジネスレターの場合
謹啓 時下益々ご盛栄のこととお慶び申し上げます。平素より格別のご愛顧を賜り、衷心より御礼申し上げます。

②ビジネスメールの場合
□□□□様
時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
日頃は過分なるお引き立てに与り、厚く御礼を申し上げます。

③親しい人への書簡の場合
拝啓 伯父上様におかれましては、時下ますますご健勝のこととお喜び申し上げます。

時下を使用した挨拶文の例文(2)

拝啓 時下益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。日頃より格別のご愛顧を賜り、厚く御礼申し上げます。
※「清祥」は、健康で幸福なこと。
拝啓 時下益々ご健勝のこととお慶び申し上げます。日頃より一方ならぬお引き立てに与り、心より御礼申し上げます。
謹啓 時下いよいよご盛昌の由、慶賀の至りに存じます。また、平素は格別のご贔屓を頂戴し、衷心より御礼申し上げます。

「時下」の使い方

「時下」は、それだけでは文章として成立しません。時下の前後に何かしらの言葉を付け足すことで、ひとつの文章となります。

以下では、「時下」を他の言葉と組み合わせた使い方と、注意点について解説します。

「時下 ますますご清祥のこととお喜び申し上げます」

「時下」が使われるのは手紙の冒頭文です。「時下、ますますご清祥のこととお喜び申し上げます」は時候の挨拶文として非常に良く使われています。「ご清祥」の他にも「ご多幸」「ご繁栄」などを使うこともあります。

佐藤様におかれましては 時下 ますますご清祥のこととお喜び申し上げます

すっかり春めいて参りました 貴社におかれましては 時下 ますますご繁栄のこととお喜び申し上げます

「時下」を付けることで「今、この瞬間も」という時間を表すことができ、刻一刻と幸せが増していっていることでしょう、と「ご清祥」など後に続く言葉を強調しています。

「時下」は口頭の会話では使わない

「時下」は「今」という意味ではありますが、手紙の文中や口頭での会話の中で使うことはありません。

注意
「今」を全て「時下」に置き換えられるわけではなく、あくまでも手紙の挨拶文の中だけで使う特別な言葉ということを認識しておきましょう。

会話の中では「今」「現在」などを使いますので「時下」が使われることはありません。

「時下」と「拝啓」の使い方

手紙の冒頭では「拝啓」という言葉が使われることが多いです。「拝啓」とは「拝」が「謹んで、お辞儀をして」という意味で、「啓」は「申し上げます」という意味です。

手紙の冒頭では、相手に敬意を表してまずは頭を下げ、その後に時候の挨拶をするという流れになります。そのため「拝啓 時下ますます〜」という形は定型文であり、改まった手紙の書き出しとして使われています。

また「拝啓」で始めた手紙は「敬具」で締めると決まっています。最後の「敬具」を忘れないようにしましょう。

ちなみに「拝啓」「敬具」を用いる手紙は、目上の方や自分との関係性が遠く、またはやや薄い方へのものです。身近な同僚や親戚、友人などへの手紙に「拝啓」「敬具」を使うと、相手との距離を広げることになります。

近しい人への手紙は「前略」「草々」を使いましょう。

「前略」とは「前文を省略する失礼を許してください」という意味で、「草々」は「慌ただしくてすみません」という意味があります。どちらも「親しいあなただから」という親しみを込めた気持ちを伝えることができます。

さらには、目上の方や本来であれば「拝啓」「敬具」を使わなければならない相手であっても、病気のお見舞いや災害のお見舞いなどの場合は「前略」「草々」を使わなければなりません。

これは、あなたの病状や環境を心配して急いで手紙を書いています、ということを表し、その気持ち自体もお見舞いとして届けるためです。

「時下」の後に続く内容の順序

手紙を書くときは「拝啓 時下」から始まりますが、その後の流れにも大まかな順序が決められています。

一般的には「拝啓 時下(時候の挨拶)」→「相手を気遣う言葉」→「相手への日頃の感謝の言葉」→「相手への尊敬の念を示す言葉」→「本文」→「相手の健康を祈る言葉」です。

「相手を気遣う言葉」や「相手の健康を祈る言葉」は「時下」によってある程度決まります。「時下」つまり「今の季節」に基づいた言葉を選ぶ必要があるということです。

暑い季節であれば「毎日暑い日が続きますがいかがお過ごしでしょうか」「まだまだ暑い日が続きます、くれぐれもご自愛ください」などです。

「相手への日頃の感謝の言葉」とは「○○様には日頃よりお心にかけていただき心より感謝申し上げます」など、普段から感じている感謝の気持ちやお礼を述べます。

「時下」の言い換えとなる「時候の慣用句」

手紙の冒頭に使う「時下」ですが、季節によって「時候の慣用句」に置き換えることもできます。時候の慣用句とは、月ごとに変わるその季節に合った挨拶の言葉のことです。

1月であれば「新春の候」
2月は「向春の候」
3月は「早春のころ」
4月は「陽春の候」
5月は「新緑の候」
6月は「初夏の候」
7月は「猛暑の候」
8月は「残暑の候」
9月は「黄葉の候」
10月は「秋冷の候」
11月は「紅葉の候」
12月は「師走の候」などです。

ここに上げた時候の慣用句はほんの一例ですが、それぞれの季節にあった挨拶として「時下」の代わりに使うことができます。「時下」よりも風情を感じる挨拶文にしたい場合におすすめです。

尚、時候の挨拶は基本的には旧暦に合わせているので、現代の気候とはややずれが生じることもあります。しかし時候の慣用句は、一種の決まり文句のような働きをするため、あまり深く考える必要はありません。

「時下」の言い換えに使える類義語

「目下(もっか)」

「目下」とは「目の前」「見えている今」「ただ今」という意味です。「時下」と違って会話でも使えますし、文章中に使っても問題ありません。

「目下、前進の為に尽力しております」などと使います。「目下」には季節的なニュアンスは無く、文字通り「目の前の今」という意味だけに留まります。

「今日(こんにち)」

「今日」には「現代」「この頃」という意味があります。

「今日の日本では見られなくなった風習」などと使います。文章中では同じ文字を使う「今日(きょう)」と区別が付きにくいこともあり、さほど使われることはないようです。

口頭での会話では「こんにち」と発音できるため、意味の混同が起きにくく比較的頻繁に使われています。