「拝啓」「敬具」の意味
相手へのお礼状や、贈答品へ添える手紙などで目にすることが多い「拝啓・敬具」という言葉があります。
手紙の最初には「拝啓」手紙の終わりには「敬具」と書かれていますが、この言葉にはどのように意味があるのかご存じでしょうか?どちらも漢字二文字の言葉で、見ただけではいまいち意味が伝わってこないという人も多いようです。
人にあったら「こんにちは」、別れる時には「さようなら」と挨拶をしますが、この挨拶が手紙になると「拝啓」「敬具」となります。

「拝啓」は「拝む」と「申し上げるを意味する啓」が一緒になった言葉です。
「拝啓」を訳すとすれば「拝みながら申し上げます」となるでしょう。手紙という相手の顔が見えない状態での挨拶では、頭をさげてお辞儀をすることもできませんが「拝啓」を使うことで、お辞儀をしながら申し上げる様を表すことができます。
「敬具」は「敬う」と「ととのえることを意味する具」が一緒になっています。
つまり「敬いながらととのえます(終わります)」という意味です。手紙の用件が終わったあとで、「用件はお伝えしました、あなたを敬いながら手紙を終わります」ということを相手に伝えています。
手紙には決まった形式がある
手紙の最初と最後に「拝啓」「敬具」とすれば、その他はどのように書いても良い、というわけではありません。「拝啓」「敬具」が使われる手紙には、その他にも決まり事があります。
(1)「拝啓」の後は「時候の挨拶」
「時候の挨拶」とは、その季節に合った挨拶の決まり文句です。時候の挨拶は月ごとにいくつかありますので、自分が使いやすいものを選びましょう。たとえば1月なのであれば「新春の候」、2月であれば「向春の候」などです。

(2)「時候の挨拶」の次は「気遣いの言葉」
「時候の挨拶」の次には相手を気遣う言葉が入ります。「ますますご健勝のことと存じます」などが代表的でしょう。時候の挨拶と並べると「新緑の候、ますますご健勝のことと存じます」となり「○○な季節になりましたね、きっと元気にされていますよね」という意味です。相手へ語りかける冒頭の挨拶になります。
(3)「気遣いの言葉」の後には「御礼・感謝」
「気遣いの言葉」の後には「いつもありがとうございます」という意味の「御礼・感謝」の言葉が入ります。「○○様には、いつもお心にかけていただき心より感謝申し上げます」など「いつもありがとう」「いつもお世話になっています」という内容を伝えるのです。

拝啓 新緑の候、ますますご健勝のことと存じます。○○様にはいつもお心にかけていただき、心より感謝申し上げます
ここまでが手紙の冒頭の挨拶文です。この次からやっと用件に入ることができます。
(4)用件のまとめ
用件を書き終えたら、手紙の内容のまとめ文を入れます。「まずは略儀ながらお礼かたがたご挨拶申し上げます」など、手紙の内容にあった言葉を書きましょう。「今日はこういう用件でした」と改めて用件を振り返ることで話しを締めます。
(5)「用件のまとめ」の後には「季節に絡めた気遣いの言葉」
時候の挨拶とは別に、文末では「季節に絡めた気遣いの言葉」が入ります。寒い季節であれば「日に日に寒さが厳しく感じられます、どうかご自愛くださいませ」などでしょう。「○○な季節だから、身体を大事にしてくださいね」ということを伝える文章です。
(6)「季節に絡めた言葉」の後には「敬具」
ここで「敬具」が入ります。「以上の内容を、あなたを敬いながら終えます」という挨拶です。「敬具」の後には、日付と名前を入れて、手紙は終わりです。
「拝啓・敬具」意外の手紙の挨拶
「拝啓・敬具」のセットは一般的に多く使われています。相手への敬意を表しながらも、丁寧過ぎず使いやすいためです。しかし状況や相手によっては、もっと別の挨拶の方が効率的であったり、相応しいということもあるでしょう。
「前略」「早々」
この「前略」という言葉とおり、「前置きを省略します」という意味を持つ挨拶は使う状況や相手が限られます。まず、「とても急いで伝えないといけないことがある」「まずはこれだけ伝えたい」など、非常に急いでいる状況であり、かつ、相手がある程度気心の知れた人であることです。
文末の「早々」にも「早々と終わります」という意味がありますので、敬意を表さなければならない相手へは相応しくありません。

「謹啓」「敬白」
この表現は「拝啓・敬具」よりも丁寧で格式高い挨拶です。相手が上司やお客様、取引先の方など、最大限の敬意を表さなければならない手紙に使われています。とても配慮の感じられる挨拶であるため、相手の方との関係が深くない場合でも、安心して使うことができるでしょう。

「拝啓・敬具」を使わない方が良い手紙
手紙の内容や、受け取る相手によっては「拝啓・敬具」が逆効果となることもあります。
- とても親しい人への手紙
- 何らかの失礼があった相手へ出す「詫び状」
- 病気の人、前文の無い手紙への返信
とても親しい人への手紙
上司や同僚など立場によらず、あなた個人と相手の関係が非常に良好な場合は「前略・早々」などに留めた方が良いでしょう。手紙とは言っても、実際の関係とかけ離れた丁寧な挨拶は、相手との距離を広めてしまいます。
何らかの失礼があった相手へ出す「詫び状」
「詫び状にこそ使った方が良いのでは?」と考えてしまいがちですが、詫び状というのは「一刻も早く謝罪の気持ちを伝えるため」の手紙です。「拝啓・敬具」を使って時候の挨拶などの流れを追って書いてしまうと「のんびり書いているな」「緊迫感が伝わらない」と相手に間違った心象を伝えてしまいます。

病気の人、前文の無い手紙への返信
つまり、「拝啓・敬具」やその他の前文などは、たくさんあるマナーの中の一つであって、「拝啓・敬具」などの前文が主役ではないのです。手紙の用件をしっかりと丁寧に心を込めてかけば、前文が無くても相手にはしっかりと気持ちを伝えることができます。